人生100年時代と言われる現代、公的年金の受給開始時期の選択は老後資金に大きく影響します。「何歳まで生きれば得なのか」という損益分岐点の視点から、大阪を拠点に活動する独立系ファイナンシャルプランナー(FP)がわかりやすく解説します。
公的年金は原則65歳から受給開始ですが、60歳からの「繰り上げ支給」と66歳以降の「繰り下げ支給」を選択できます。この選択で生涯受給総額が変わるため、自分の寿命予測に基づいた判断が重要です。

繰り上げ支給の損益分岐点
まず、繰り上げ支給の損益分岐点を見てみましょう。繰り上げ支給を選ぶと、1か月あたり0.4%、年間では4.8%減額されます。60歳で受給開始した場合、24%の減額となります。例えば、本来65歳から月額10万円の年金が受け取れる方が60歳から受給を開始すると、月額7.6万円になります。
この場合の損益分岐点を計算すると、60〜64歳の5年間で先に受け取れる金額(7.6万円×60か月=456万円)と、65歳以降の減額分(2.4万円/月)の累積額が等しくなる時点です。456万円÷2.4万円=190か月≒15.8年となり、65歳+15.8年=約80.8歳が損益分岐点です。つまり、81歳以上生きる可能性が高い方は、繰り上げ支給を選択しない方が生涯受給総額で得になります。
繰り下げ支給の損益分岐点
次に、繰り下げ支給の損益分岐点です。繰り下げ支給を選ぶと、1か月あたり0.7%、年間では8.4%増額されます。70歳まで繰り下げると42%の増額となります。同じく月額10万円の年金が、70歳からの受給開始で月額14.2万円になります。
この場合の損益分岐点は、65〜69歳の5年間で受け取れなくなる金額(10万円×60か月=600万円)と、70歳以降の増額分(4.2万円/月)の累積額が等しくなる時点です。600万円÷4.2万円=約142.9か月≒11.9年となり、70歳+11.9年=約81.9歳が損益分岐点です。82歳以上生きる可能性が高い方は、繰り下げ支給を選択した方が得になります。
75歳まで繰り下げた場合の損益分岐点も計算してみましょう。75歳では84%増額となり、月額18.4万円になります。65〜74歳の10年間で受け取れなくなる金額は1,200万円(10万円×120か月)です。75歳以降は毎月8.4万円多い年金を受け取れるため、この増額分が1,200万円に達するのは約143か月(11.9年)後、つまり約86.9歳の時点です。90歳近くまで生きる可能性がある方には、75歳までの繰り下げも検討の余地があります。
平均余命データを基にすると・・
日本人の60歳時点の平均余命は、男性23.68年(すなわち60+23.68=約84歳まで生きる)、女性28.91年(約89歳まで生きる)(2023年)です。これを考慮すると、特に女性や長寿の家系の方は繰り下げ支給が有利になる可能性が高いでしょう。一方、健康に不安がある方や家族に短命の傾向がある方は、繰り上げ支給も選択肢となります。
高インフレを考慮すると・・
現在の世界的なインフレ傾向も考慮すべき要素です。インフレが進行すると、将来の年金価値は目減りするのでしょうか?
答えはいいえです。日本の公的年金制度は「賦課方式」で運営されており、現役世代が支払う保険料から年金が給付されます。すなわち、現役世代の賃金がインフレに応じて上昇するため、もらえる年金の金額も基本的には毎年改定されて上昇します。その上、繰り下げ支給の増額率(年率8.4%=月0.7%×12か月分)が上乗せで増加します。そもそも年率8.4%は日本銀行の物価目標2%を大きく上回るため、インフレ対策としても有効です。
まとめ
上記の損益分岐点はあくまで金銭的な単純計算であり、60代の生活資金の必要性、健康状態、ライフスタイル、資産運用の状況や年金以外の収入など個人の状況によって最適な選択は変わります。また、配偶者の「加給年金」の有無や、税金・国民健康保険料の負担などとの関係など、家計全般を考えて総合的に判断する必要があります。FP事務所では、お客様の総合的なライフプランを踏まえた年金受給戦略をご提案しています。
独立系FPだからこそ、金融機関の利害に縛られない中立的な立場から、インフレリスクも考慮し、各個人の状況に合わせた最適なアドバイスを提供できます。損益分岐点の先にある安心の老後のために、一度専門家に相談してみませんか?お客様一人ひとりの状況に合わせた最善の選択をサポートいたします。
この記事を書いた人
桐山 昌也
株式会社ライトオブライフ 代表取締役 ファイナンシャルプランナー(FP)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)・MBA(経営学修士)
京大卒、銀行・メーカー勤務を経て、現在大阪を中心に独立系ファイナンシャルプランナーとして活動。
「出張型FP」・「最適なアドバイスのできる独立系FP」・「サポートの頼れる実務的FP」・「保険・投資販売しないFP」を特徴としている。
ライフプラン相談・家計改善は「ライトオブライフのFP」へ https://light-of-life.jp/