エンゲル係数の歴史
エンゲル係数とは、家計における消費支出全体に占める食費の割合を示す経済指標です。この概念は1857年、ドイツの統計学者エルンスト・エンゲル(1821-1896)によって提唱されました。彼はベルギーの300世帯の家計データを分析し、「家計の所得水準が上がるにつれて、食費が家計支出に占める割合は低下する」という法則性を発見しました。
この法則は「エンゲルの法則」として経済学の基本原理となり、今日まで世界中の経済分析や生活水準の測定に広く活用されています。重要なのは、エンゲルの時代から現代に至るまで、この法則の普遍性が維持されている点です。
エンゲル係数の計算方法と実例
エンゲル係数の計算式は非常にシンプルです: エンゲル係数(%) = 食費 ÷ 消費支出総額 × 100
例えば:
- 月の食費が8万円、消費支出総額が32万円の家庭 → エンゲル係数は25%
- 月の食費が6万円、消費支出総額が30万円の家庭 → エンゲル係数は20%
ここで注意すべき点は、分母となる「消費支出総額」には税金や社会保険料などの非消費支出は含まれないことです。よって、税・社会負担料増加による手取り額の減少はエンゲル係数の低下につながります。また、食費には外食費も含まれるのが一般的です。総務省の家計調査では、この定義に基づいて全国的なデータが収集・分析されています。

エンゲル係数の評価基準と国際比較
エンゲル係数は一般的に以下のような基準で評価されます:
- 20%以下:非常に裕福、または高所得国の標準
- 20~30%:先進国の一般的水準
- 30~40%:発展途上国の都市部世帯
- 40~50%:発展途上国の低所得層
- 50%以上:極めて厳しい経済状況、最貧国の一般的水準
国際比較では、日本のエンゲル係数(28.3% /2024年)は他の先進国と比べて近年高めに推移しており、発展途上国の都市部世帯の水準といわれる30%台に近づいています。
日本のエンゲル係数の推移と現状
日本のエンゲル係数は戦後の高度経済成長期に劇的に低下しました。1950年代には40%を超えていましたが、1970年代には30%を下回り、バブル期には20%台前半まで低下しました。この変化は日本の生活水準の向上を数値で表しています。
しかし、バブル崩壊後は緩やかな上昇傾向に転じ、特に2010年代以降は再び上昇傾向が顕著になっています。総務省の最新データによると、2024年の全国平均は約28.3%と、10年前と比較して約4%強の上昇を示しています。この背景には、食料品価格の上昇率が賃金上昇率を上回るという経済状況があります。
大阪市のエンゲル係数が全国1位である複合的要因
日本の県庁所在地の都市別のエンゲル係数で大阪市が全国1位に言われているのをご存知でしょうか。この背景には複数の要因が絡み合っています:
経済構造的要因:大阪市の住民の所得水準は東京都区部の住民より大幅に低く、それは大阪市の住民の消費支出が東京都区部の住民より約2割少ないことに表れています。一方、食品など生活必需品の価格は、日本の大都市間でそれほど大きな差はなく、消費支出に対する食費の割合が相対的に高くなっています。
人口統計学的要因:大阪市は世帯人員が1人である単独世帯率が53.6%と全国平均(38.1%)を大きく上回り(2020年国勢調査)、また高齢者世帯の割合も高いです。これらの世帯はいわゆる「規模の経済」が働きにくく、構造的にエンゲル係数が高くなる傾向があります。
食文化的要因:「食いだおれの街」という言葉に象徴されるように、大阪には食に価値を見出す文化的背景があります。独自の食文化が、食費への支出意欲を高めている面もあります。
外食産業の発達:大阪は外食産業が非常に発達しており、外食率が高い傾向があります。外食は一般的に自炊より高コストであるため、エンゲル係数を押し上げる要因となります。
これらの要因が複合的に作用した結果、大阪市のエンゲル係数が高くなっていると考えられます。消費支出は他の都市に比べて低い中で、食に対する価値観が高く、グルメを愛し、食費への支出を惜しまない傾向が下のグラフを見ても明確に表れているように思います。同様の傾向は、京都市や神戸市など関西の他主要都市にも表れています。

インフレ時代の家計管理の重要性
エンゲル係数の上昇は家計の硬直化を意味し、将来の資産形成や緊急時の備えに影響を与えます。特に現在のようなインフレ環境下では、食費だけでなく光熱費や日用品なども値上がりしており、家計への圧迫はさらに強まっています。
このような状況下では、専門的な知識を持つファイナンシャルプランナー(FP)への相談が効果的です。独立系FPは特定の金融機関に縛られないため、お客様の利益を最優先にした中立的なアドバイスが可能です。特に大阪市にある当FP事務所では、地域の経済状況を熟知した上での実践的な家計改善策を提案しています。ぜひ一度資産運用や家計相談についてファイナンシャルプランナーにご相談ください。将来の経済的安心のために、今できることから始めましょう。
参考
総務省統計局ウェブサイト「家計調査」 https://www.stat.go.jp/data/kakei/
社会実情データ図録「エンゲル係数が高いのは家計が苦しい地域か(県庁所在市の比較)」https://honkawa2.sakura.ne.jp/7717.html
老後資金について真剣に考えよう。ただ貯める・残すだけではない老後資金・ライフプランの考え方について、
当社Webサイト「FPの豆知識」の下記のコラムも参考になります。↓
「【最新】平均余命から逆算!健康寿命と「Die with Zero」でデザインする、後悔しない老後資金計画」
https://light-of-life.jp/2025/05/13/lifeplan_update/
ファイナンシャルプランナー(FP)への相談については、以下のコラムも参考にしてください。
【大阪・FP事務所】ファイナンシャルプランナーへ相談する際に役立つコラム一覧
この記事を書いた人
桐山 昌也
株式会社ライトオブライフ 代表取締役 ファイナンシャルプランナー(FP)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)・MBA(経営学修士)
京大卒、銀行・メーカー勤務を経て、現在大阪を中心に独立系ファイナンシャルプランナーとして活動。
「出張型FP」・「最適なアドバイスのできる独立系FP」・「サポートの頼れる実務的FP」・「保険・投資販売しないFP」を特徴としている。
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